世界一長寿のおばあちゃん

小さな絶対君主制のある王国に、世界一が誕生した。
その主役はハンナばあさん。御年115歳。そう、長寿世界一となったのだ。王様はたいそう喜んで、

「なんとめでたい。お祝いに、ハンナの望みを何でもかなえてあげるが良い。」

と勅命を出した。この国では王の命令は絶対。逆らえば首が飛ぶ、文字通りに。早速、大臣がお祝いの品を届けに行き、希望を尋ねた。

「王様のご厚意により、何でも望みをかなえてしんぜる。何なりと申してみよ。」

「おかげさまで、この歳まで元気に生きられました。足腰もしっかりしていて、家事も一人でこなせます。資産もあるので、生活にも困りません。ただ、私は天涯孤独。身寄りがありません。どなたか素敵な殿方と一緒に暮らせたらと思います。」

「あい分かった。どのような者との同居が望みじゃ。何なりと申してみよ。希望をかなえてしんぜる。」

「はい、外見は良いにこしたことはありませんが、あまりこだわりません。お金もいりません。強いてあげれば、年上が好みです。」

「ハンナの望みをかなえてやれ。期限は1ヶ月以内じゃ。」

報告した大臣は慌てた。ハンナより年上の男性など、この国はおろか、世界中にも存在しない。記録漏れの可能性も否定できないが、見つける困難さは海岸の砂利を数えることに匹敵するだろう。
大臣は良い解決策を思いついた。この問題を家来に丸投げしたのだ。
これで大臣の首はつながった。家来はその部下に、部下はまたその下っ端に、次々に丸投げしていった。
とうとう福祉課の若干25歳のトムにお鉢が回ってきた。トムには丸投げする相手がいなかったのだ。
期限は残り3週間。トムは暗い知恵に身をゆだねることにした。 

トムは捜しまわった。そしてとうとう見つけた。ジェームスだ。
ジェームスは、トムの考えた条件に、ただ一つをのぞいて、ぴったり当てはまっていた。
その反していた条件も、ジェームスの出生証明書を改ざんすることで、クリアされた。
トムは自分が福祉課にいて、書類を改ざんするチャンスがあったことを神に感謝した。
トムとジェームスがハンナの家を訪れたのは期限のちょうど1週間前だった。

「初めまして、ハンナさん。ジェームスです。外見は若く見えますが、間違いなくあなたより年上です。この出生証明書を見てください。」 
確かにジェームスのひげは真っ白であったが、どう見てもハンナより若い。というより若すぎる。

実はジェームスはトムと同じ年に生まれ、すぐに両親と死に別れていた。
かわいく、かわいそうな赤ちゃんを養父母は愛情込めて育てた。ジェームスは美しい若者に成長した。
顔立ちが整っていたおかげで、事情を知らない若奥さんや女学生達はジェームスをアイドル扱いした。
しかし、性格は最悪だった。反抗を繰り返し、しょっちゅう家出ばかりしていた。外泊も日常茶飯事で、家に帰ってくるのはけんかの傷を治すときくらいだった。仲間を引き連れて夜の徘徊、盗み、器物損壊、小動物の殺害など、人殺し以外は何でもやった。親戚連中は施設に送ることを提案したが、養父母は25年間ジェームスを育て続けた。

トムはハンナの反応を観察していた。死刑か執行猶予付き懲役か判決を待つ容疑者の気持ちであった。
もちろん、ハンナの判決が死刑の時には言い訳も用意している。しかし、それは杞憂に終わった。
ハンナはまるで、100年前の乙女に戻ったような表情をしていた。目尻は下がり、ほおに赤みが差し、甘えるような声で、ジェームスに話しかけた。
「おおジェームス、あなたと一緒に暮らせたらうれしいわ。家にはお金がたくさんあるから、贅沢させてあげるわよ。あなたは何もしなくて良いの。お世話は全部私がしてあげる。だからお願い。ここで一緒に暮らしましょう。」

ジェームスは振り返り、トムに向かって目を細めた。その目は「うまくいったぜ」と物語っているようだった。
そして、ハンナの目をまっすぐ見つめ、116歳にしては不釣り合いな猫なで声で応えた。
その声にハンナはますますジェームスに夢中になった。トムはまさかの逆転無罪に有頂天になった。
後は王様に報告するだけだ。ハンナの相手はジェームスがうまくやってくれることだろう。

ハンナは幸せだった。一気に若返ったようだった。世界一長寿のおばあちゃんは世界一元気なおばあちゃんになった。
発言通り、ジェームスの世話をすべて行った。お風呂も一緒に入りたがった。
ジェームスはさすがに一瞬いやそうな顔をしたが、抵抗はしなかった。
ハンナは115年間で一番幸福な時を味わっていた。
そんなハンナの幸せは1週間しか続かなかった。

同居を始めて1週間目の深夜、ジェームスは異様な気配に目を覚ました。
音もなく立ち上がると、となりで寝ているハンナをのぞき込んだ。
ハンナは息をつめ、胸のあたりを手で押さえていた。
「ああジェームス、胸が、胸が苦しいの。」
ジェームスは慌てて救命措置を、とらなかった。病院に電話すらしなかった。
だんだん青白く冷たくなっていくハンナを、黙って、冷ややかな目で見下ろしているだけだった。
そして、ハンナの眉根から力が抜け、安らいだ表情になったとき、ハンナの口元に顔を近づけた。
生死の確認とも、お別れのキスとも見えた。そして、もう息をしていないハンナを前に、しばらく小首をかしげて考え込んだ後、闇夜の中へ消えていった。

国を挙げての葬式が盛大に執り行われた。葬儀委員の中にはトムもいた。
トムはジェームスの姿がないことに気がついていたが、何も言わなかった。
うすうすその理由は察していた。
葬儀が終わると、王様からトムに直々にお声がかかった。

「トム、このたびの働き、見事であった。ハンナも満足して逝ったことであろう。」

「はい、最期の時にジェームスと一緒に暮らせて、50も若返り、はつらつとしていたと近所の者達も申しておりました。」

「ところで、そのジェームスの姿が見えなかったが、心当たりはあるか。」

「確実ではありませんが、老猫は死すとき姿を消すと申します。ジェームスも25歳、人間でいえば116歳の高齢です。おそらくハンナと同じ時に自らの寿命を察し、人目に付かぬところで天寿を全うしたのでございましょう。」

トムはハンナの遺影に向かい、心の中でわびた。

「ハンナさん、喜んでもらえてうれしいよ。でも、一つだけ嘘ついてたんだ。ごめんよ。・・・実は、ジェームスは、メスなんだ」
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