鳥居

小学校6年生のときのことです。
夏休み中で、その日は午後からクワガタを獲りに3年生の弟とずっと裏山に入っていました。
裏山は高さ100mもあるんでしょうかね。
何本か登山道はあるんですが、どれも一本道で何にもない山頂に続いているだけです。
ほんの小さい時分から入って遊んでるんで、危険なことなんて何もない思っていたんですよ。

それからクワガタといっても大きなのはめったに見かけなくて、 コクワガタというんですが、朽木の中にもぐりこんでいるやつ。あれを集めてたんです。
倒れた太い木で、すっかり乾いてくぎ抜きでほじくり返せるやつ、 そういうのの木肌をぱきっと割ると中に通り道の溝ができてて、そこにひそんでるんです。
オスばかり獲ってメスは捨ててましたね。

夕方になったんで帰ろうと道を下っていると、 林をへだてた向こうの登り道が見えるんですが、 木の間に何か赤いものが見え隠れしている。
何だろうと思ってちょっと高いとこから見たら、お稲荷さんにあるような小さい赤い鳥居です。
それが何十本もずっと山道に沿って続いていました。
「あれっ」と思いました。小さな山でほんとに隅々まで知ってるんです。
そっちの道も何度も通ってますが、そんなものはこれまでなかったんです。
子どもでも不思議に思いますよね。それで弟といっしょにいったん下りてから、あらためてそっちの道を上っていきました。

赤い鳥居が見えてきましたが、新しいものではなく、ずいぶん年代が経っているもののようで、塗りはあちこち剥げてたし、木もぼろぼろなんです。
そういうのがずらっと何十本も山頂のほうまで続いている。
かなり暗くなってましたが、子どもだからそういうのを見るとくぐりたくなりますよね。
で、弟をしたがえて最初の鳥居をくぐりました。
そのとき、あたりの景色がぐらっとゆがんだような感じがしたんです。
どう表現すればいいのかな・・・虫眼鏡をのぞくと最初はぼやけて見えますね。
それからピントを合わせる。そんな感じといえばわかってもらえるでしょうか。

鳥居と鳥居の間隔は1mもないくらいでしたね。
その中を進んでいくと後ろから風が吹いてきて背中にあたりました。
そんなに強い勢いじゃなかったですが、すごく冷たいんです。
夏休み中でその日も気温は30度を越えていたと思います。
それなのにすごくひやひやした風が吹いてくる・・・
いや、気持ちいいというより嫌な感じがしました。
早く抜けださないと大変なことになるかもしれないという予感がしたんです。
何でかわかりませんけど。
それで弟の手を引いて急ぎ足で登っていきました。
そのときは引き返そうとは思わなかったですね。とにかく後ろを向くのが嫌だったんです。

10本、20本と鳥居を抜け、上のほうに出口が見えてきました。
もう少し、と思って小走りになったら
5本くらい先の鳥居の上からすーっと何かが降りてきたんです。
昔のおもちゃ・・・風車とかでんでん太鼓とかああいうのが束になって、頭くらいの高さのところで揺れてるんですよ。近づいてよく見ると、おもちゃはクモの糸のような細いキラキラした糸で上から吊り下がってました。
さらに上は木の枝が重なってて、どこまで続いているかはわからなかったです。
そのおもちゃが目の前でくんくんと上下に揺れるんです。弟が手をのばそうとしました。

そのとき自分は「これはいけないものだ」という気がして、その下をくぐるようにして弟の手を引っぱって走ったんです。
もう20本ほど鳥居を抜けて出ると、山頂付近まできていました。
そのときはじめて後ろを振り返りましたが、そこには何もなかったんです。
ただ林の中の道が下まで延びているだけでした。

最初の道を通って走って家に帰ると、ちょうどじいさんが野良から帰ってきたところでした。
弟といっしょにさっき見た鳥居の話をすると、じいさんは「うーん」と考えこんでましたが、庭のほうに回って縁側に腰をかけ、
「そうだな、じいちゃんがちょうどお前らくらいのときのことだから、昔々のことだ。
百鳥居の話を聞いたことがある。なんでも古くからこの地域でお祀りされていたお稲荷さんだったが、不浄なことがあって・・・
不浄というのは神社が血でけがれてしまったという意味だよ・・・
とにかくだれも祀るものがいなくなり火をつけられてしまった神社の、鳥居だけが山の中に現れて、迷い込んだ子どもをさらうということがあったらしいしかしこの話はもう何十年も前に聞いたことで、今やっと思い出したくらいだよ」
と教えてくれました。

その後、わたしたちはじいさんの勧めで仏壇の前でしばらく手を合わせていました。
それからも何度か裏山には入りましたけど、おかしなことは何もなかったです。
わたしは高校を出てから就職で町に出ましたが、
ずっとそっちに残っている弟に聞いても、あの鳥居は二度と見ていないというんです。
弟もあのときのことをよく覚えていましてね。
実家に帰ったときにこんなことをいわれました。

「兄ちゃん、あんときの鳥居だけどさ。俺がおもちゃにさわろうとしたのを兄ちゃん止めてくれたよね。だけどさ、あれがもし昔のおもちゃじゃなくて、あの当時兄ちゃんがほしがってたゲーム機とか大きなクワガタだったりしたら、兄ちゃんどうした」
これを聞いて、わたしもしばらく考え込んでしまいました。
まあこういう話です。
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