犯人は、おまえだ

名探偵の第一条件とは何だろうか。

そう問われれば、ある人はどんな些細なことも見逃さない観察力を挙げるかもしれない。
またある人は、ばらばらになった事実から一つの真実を導きだす卓越した分析力を上げるかもしれない。
もちろん、頼りになる助手を挙げる人だっているかもしれない。
名探偵には、優秀な(そして少し間の抜けた)助手が付き物だからだ。

だが、俺に言わせればすべて違う。名探偵であるための何よりの条件、それは、死神に好かれることだ。
自分のまわりで人が殺されていかないかぎり、どんな観察力も分析力も、その力を発揮する機会を与えられないのである。そしてそう考えると、俺は確実に名探偵であるのだろう。俺のまわりでは、本当によく人が殺される。うんざりするくらいに。

屋敷の一室に横たわるスタインベッカー氏の死体を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
まわりでは刑事たちが忙しく動き回り、部屋の入り口では屋敷の使用人たちが心配そうに中を覗き込んでいる。
やれやれ、せっかくの休暇だというのに、またしても事件に巻き込まれてしまったようだ。

「プアロくん、しかし君も本当によく事件に巻き込まれる男だな」

「デンゼル警部じゃないか、久しぶりだな。どうやら俺はそういう星のもとに生まれているみたいだよ。もしくは、この天才的な頭脳を活かす場所を神が与えてくれているのかもしれない。殺人犯に難解なトリックを使わせることでね」

「相変わらず不謹慎な冗談の好きな男だな。それで、どうなんだ。何か分かりそうかね?」

「まあね。すでにいくつかのヒントは手に入れている。とりあえず、事件が起きたときこの屋敷にいた人を集めてくれ」

「ふん、相変わらず自信満々だな。分かった、ちょっと待っていろ」

5分後

「プアロ君」

「おう、調べてくれたかい」

「ああ。スタインベッカー氏が殺されたと思われる昨夜9時過ぎ、この屋敷には全部で666666人の人間がいたようだ。 今からその人たちをひとりずつ――」

「ちょ、え、なに?」

「だから、スタインベッカー氏が殺されたと思われる昨夜9時過ぎ、この屋敷には全部で666666人の人間が」

「666666人!?」

「ああ。六十六万、六千六百、六十六人だ。………不吉な数字だな」

「いや不吉だとか言う前によ! この屋敷のどこにそれだけの人間がいたんだ」

「この屋敷、意外と広いからな」

「66万人は屋敷の広さじゃない。ちょっとした都市の広さだぞ!」

「実際いるんだから仕方ない。一人ずつアリバイを聞いていこう」


5日後

「わたしは、スタインベッカーさんが殺された時間は、部屋でビルとチェスをしていましたね。アリバイはビルが証明してくれるはずです。それにそもそも、わたしにはスタインベッカーさんを殺すような動機はまったく無いわ」

「なるほど、分かりました。ご協力ありがとうございます。………ふう、これで116人目がおしまいか、よし、それじゃあ次の人に……」

キャーーッ!

「大変だー! 第二の殺人が起きたぞーーーー!」

「えぇーー!?」

2ヶ月後

「僕はスタインベッカー氏が殺された時は部屋で本を読んでいましたね。ええ、だからアリバイを証明することはできません。そしてシュトロハイム氏が殺された時も本を読んでいました。はい、本が好きなんですよ。本の内容ですか、はい、もちろん覚えてますよ。それでジャブジャブチョップリン氏が殺された時も本を読んでいましたね。そして……」

………よし、これで1854人目の聞き込みが終わったな。ようし、それじゃあ次は1855人目の……」

キャーーッ!

「大変だー! 95人目の被害者が出たぞー!」

「えぇーー!? ぜんぜん追っつかねぇー!」

3年後

「スタインベッカー氏が殺された時に何をしてたかなんて覚えてないよ! もう三年前だぞ!え? シュトロハイム氏? バウムクウヘン氏? シュナイダー氏?そんなのいちいち覚えてないよ! アリバイ? あったりなかったりだよ!」

「ありがとうございます。なんとかこの連続殺人事件を解決に導いて……」

キャーーッ!

「大変だー! 屋敷の厨房でボヤがあって4520人が死んでるぞー!」

「えぇーー!? 事件と関係ねぇー!」


50年後

「よぉし、これで352046人のアリバイ調査が終わったわい。なんとか寿命が来る前に事件を解決せんといかんのお」

キャーーッ!

「大変だー! 真犯人と名乗る男たち586人がそれぞれ平均1420枚ずつ遺書を残して死んでるぞー!」

「えぇーー!? 読むのめんどくさいのぉー!」

100年後

「ふむ、わしももう126歳か……。年なんてとりたくないのう。結局、この屋敷では、102546人の人間が殺され、425684人の人間が老衰や病気で死に、136420人の人間が火事などの事故で死に、2015人の人間が自分が真犯人だという遺書を残して自殺した………。名探偵と言われたプアロは、100年経った今でも事件を解決できておらん……まったく、情けないことじゃのう……

まあよい、もはや日課のようなものになっておるのだから、アリバイ調査を続けよう。
もしかしたら、今からでも真犯人が分かるかもしれん……さあ………、誰か、誰かいないのか。
スタインベッカー氏が殺された時間に何をしていたか教えておくれ……さあ………

………誰もいないのかい……、ああ、そうか………!

102546、425684、136420、2015……すべて足すと666665人になるのだな………。
そうか……この屋敷にはもう私しかいないのだ……無能な探偵がただひとり、犯人も被害者も、一人もいないのだ……もう、事件は終わってしまったのだな………
そう考えるとなんだか突然、眠くなってくるようだ……ああ………!

私は結局、誰が誰を殺したのかはまったく分からないままだったが……、ただひとつ、私を今から殺すものだけは分かるよ…………

時間よ、犯人は、おまえだ」
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