近所の広場でフリーハグをやってる女の子がいるよ

仕事先で従業員用のサンドイッチを黙々と作っていたら、同僚のおばさんがやって来て、
「近所の広場でフリーハグをやってる女の子がいるよ」と言った。

フリーハグ。そこのあなたハグしませんか、って、初めて会った人々とハグをする運動だ。
ラブ&ピース的な運動だ。私はたいして興味を惹かれなかったし、ミックスサンドを10個作るという重要な任務の途中なのでつれない返事をする。

「そっすか」

それから少し気になって聞いてみる。

「どんな子がやってるんすか」
「あのね、テレビに出てるあの子に似てた。熊田曜子」「ちょっと行ってきます」
遺伝子が脳のスピードを超えて返事していた。

私の足は瞬間的に地面を蹴って広場へと向かっていた。
全身の筋肉が生まれて初めてその能力を限界まで発揮していた。
言葉がおばさんの耳に届くころ、すでに私は会社を出て広場へ向かっていた。

広場の隅のほうで、ひとりの女の子が段ボールの厚紙で作った看板を持っていた。
そこには、「FREE HUG ハグして笑顔になりませんか」と書かれていた。
私はその子の顔をしっかりと確認するため音速を超えたスピードで近づいた。

そこには熊田曜子とは似ても似つかない普通の女の子が立っていた。

私はラブ&ピースっていうよりセックスドラッグロックンロールって気分になっていた。
今すぐ飲めない酒に溺れて幾つもの夜を越えたい気分だった。
ジャックダニエルを胃袋にぶち込みたい気分だった。
なんだ、熊田曜子?この子のどこが熊田曜子なんだ?

私は大急ぎで会社に戻るとおばさんに言った。
「どこが熊田曜子なんすか!普通の女の子じゃないすか!」

おばさんは言う。
「目がぱっちりしてたから」

新しいサンドイッチの具はこの女に決まりだ!
そう思いながらも一さじの理性がこの攻撃的な衝動を抑え、私の口からは「それだけっすか!」という言葉が鼻息荒く響く。

そんな条件を満たすだけで熊田曜子になるんだったら世界は今ごろ熊田曜子だらけだ。
あの子もこの子も熊田曜子だ。なんならラクダとかも目はパッチリしてるし熊田曜子だ。
雑誌の巻頭グラビアにサハラを歩くラクダを載せても青少年は文句一つ言わないはずじゃないか。

いかん落ち着けこの包丁はパンを切るためにある!

いや、たしかに私も期待をしすぎていた節はあるのだ。
おばさんは熊田曜子に「似てる」と言ったけど、そのあたりはほとんど聞こえないふりをしてた。
熊田曜子がフリーハグをしてるもんだと思ったし、なんなら金色のビキニを着てる熊田曜子がレースクイーンばりに旗を高々と掲げてて、そこに「フリーハグ」って書いてあるもんだと思ってた。
足取りはちょっとした風俗に行く気分だったし、熊田曜子に俺のアイルトンセナを時速300?でクラッシュさせるつもりだった。

そう、勝手に勘違いした私が悪いのだ。
落ち着け、落ち着け、今私はフリーハグの理念から最も遠いところにいるぞ。
憎悪が私の全身を覆っている。フリーハグのせいで人が死ぬ。
そうだこんな時こそ、フリーハグで笑顔になるんだ!急いで広場に向かうんだ!

くそう何度見ても似てねえ!
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