見えない絆

GWのこと。
いっちょ遊びに行くかと山手線にゆられ、上野に向かっていた。
乗車した時、車内はスカスカだった。俺は当然のように座席に座った。
しばらくして、新宿につくと、どっと人がなだれ込んできた。
俺の隣には、空席がひとつ。
そこをめがけて、5歳くらいの女の子やってくると、喜色満面で俺の隣に陣取った。勝ち誇ったような表情だった。

ぽやっと見てみれば、どうやら親子連れのようだった。
そりゃそうだ。こんな小さな女の子が一人で電車なんか乗るわけない。
女の子の後に続くように、お兄ちゃんらしき男の子と、母親がやってきた。
見れば、お兄ちゃんが座席に座る妹を羨ましそうに見ている。

GWという時期と、邪魔にならないように背負った荷物を見れば、行き先は俺と同じだろう。上野だ。
とすると、乗車時間は三十分近くになる。

俺は少し考え、ちらりとお兄ちゃんの顔を見た。
お兄ちゃんは何も言わない。
少し困ったように、笑ってさえいたと思う。
どけよ、とか、ずるい、とぶーぶー言ってもいいような年なのに。

俺はちょっと笑って、お兄ちゃんに席を譲った。
お兄ちゃんは俺の行動に戸惑った様子だったが、ペコリと頭を下げて、兄妹仲良く座席に座った。
二人の母親が、すみません、と俺に頭を下げる。

この時点で、俺はちょっと良い事したかな、と、心がほくほくする程度だった。
だけど、その後のお兄ちゃんは、もっと恰好よかったんだ。

その次の駅で、ずいぶん腰の曲がったおばあちゃんが乗ってきた。
既に座席は既にいっぱい。誰も立ち上がろうとはしない。
かといって、俺が吊革を譲った所で仕方ない。
おばあちゃんは、どう見ても、吊革に手が届かないのだ。

おい、誰か譲ってやれよ、と思っていたそのときだった。
さっき俺が席を譲ったお兄ちゃんが、おばあちゃんを見ながら、なんだかそわそわしている。

おや、と俺が目線をやると、お兄ちゃんと目があった。
俺たちは、しばらく見つめ合った。
言葉はいらなかった。
お兄ちゃんが、うんとうなずいて、立ち上がる。

「どうぞ」なんて、気のきいた言葉は言わなかったが、おばあちゃんに歩み寄り、ちょいちょいと袖を引っ張る。
恥ずかしいのか、顔が真っ赤だった。かわいい。

お兄ちゃんの意図に気付いたおばあちゃんが、ふっと優しい顔になって
「ありがとうね」と言うのを、俺は片耳聞いていた。
恥ずかしい気持ちはわかる。

結局、俺とお兄ちゃんは、二人並んで立って上野まで行った。
言葉は何もなかった。
ただ、俺たちの間には、言うに言われぬ絆が芽生えていたと思う。
もちろん、これは俺の妄想でしかないのだが…。

それはともかくとして、俺は嬉しかった。
感謝されて、ありがとうと言われるのも嬉しいけど、同じように行動で返してもらえるってのは、すごく誇らしいんだな。
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